The Crustacean Society Winter Meeting (サンフランシスコ)

2013年02月01日 21:35

The Crustacean Society Winter Meetingは、いつも Annual Meeting, Society for Integrative and Comparative Biology(SICB) の中で行われる。San Francisco(U.S.A.) で行われた大会( January, 2013)に参加してきたので報告する。

                     朝倉彰(日本甲殻類学会)


SICBの年次大会は発表が1500題ほどにもなる大きな学会大会である。この大会は例年1月の第一週から第二週にかけて行われる。この大会では他にもThe Crustacean Society、American Micoscopical Society、Animal Behavior Society の例会(大会)が同時に開催される合同大会である。


SICBはかつてはAmerican Society of Zoologists という名称であった。つまりアメリカで最も代表的な動物学の学会である。この学会の役員を長くやっていたProf. John J. McDermott (Franklin and Marshall College, Pennsylvania)さんと話した時に、なぜ改称したかを教えてもらったことがある。アメリカ人にとってはZoologistsというのは、響きに古いイメージが感じられる単語なので、改称することにしたのだと言う。余談ながら、それを考えると日本の学会で未だにZoologicalとか Zoologyという名称、あるいは雑誌名で用いたものがあるが、アメリカ人から見るとそれは古くさい変な感じに思われているのかもしれない。


 私はThe Crustacean Society (TCS)の役員を14年や務めさせていただいており、 そのWinter MeetingがこのSICBで行われ、その役員会のために、この間はほとんど毎年参加してきた。「The Crustacean Society」という言葉は、日本語には直訳できないので(Theが常に大文字始まりの名称で、「甲殻類学会だ」、「これが甲殻類学会だ」、あるいは「代表的甲殻類学会」などの強調のニュアンスがあるが、日本語にはうまく訳せない)、通称「国際甲殻類学会」と訳している。ただアメリカに発祥があるので「アメリカ甲殻類学会」と訳す人もいる。また水産学の分野では「世界甲殻類学会」と訳してある文書を何回か見たことがある。この学会は年に2回のMeetingがあり、Summer Meetingは世界を巡って開催される。

SICBの年次大会には世界中から参加があり、アメリカ以外ではヨーロッパからの参加が多い。日本からも相当数の人が参加してくる。今回は奈良女子大学の遊佐陽一さんにお会いした。また神戸の理研の倉谷滋さんの研究チームもよく見かける。日本動物学会がブースを出していて辣腕マネージャーとして知られる永井さんが来られていて、動物学会とZoological Scienceの宣伝をしていたこともある。

SICBの年次大会は、参加発表演題数からもわかるように、内容が実に多種多様であり、動物学に関するあらゆる研究の発表の場となっており、海洋生物を含む水圏生物の発表も多い。日本の大学院生が来ていることも良くあるが、彼らも多岐にわたる内容を楽しんでいるように見える。動物学の世界的な動向を知ることができるので、実におすすめの学会である。

 今回、このSICBの年次大会のセッションで、日本甲殻類学会会員の川井唯史さんが、Zen Faulkes氏(The University of Texas-Pan American)と Gerhard Scholtz氏(Humboldt-Universität zu Berlin, Germany)とともに「Special Session: Crayfish Biology; a new model organism for the field of biology」を主催されていた。 このセッションでは、重病を患って長きにわたって活動を休止して療養していたイタリアが生んだ偉大な甲殻類研究者であるFrancesca Gherardiさん(Universita degli Studi di Firenze, Italy)が来られて講演されていた。

Gherardiさんは私を含めて日本の研究者にも知己は多く、サワガニ、ザリガニ、ヤドカリなど生態学や分類学の研究者として知られていた。またInternational Association of AstacologyのPresidentも務められていた。重病後のイタリアからの長旅であり、かなりお疲れの様子であり、また声がよく出なくなってしまっていたので、マイクを口にいっぱいにつけての講演であった。そのあと私と有志で食事をともにしたが、サラダがやっと食べられる、という具体であった。

この一ヶ月後とたたないうちに、Gherardiさんの死去のニュースが届き、関係者一同ショックを受けた。結局このSICBの講演が最後の講演となったのである。またそこまで体調が悪いのに、遠路はるばる無理をして招待講演を受けられたその義理固さに、ただただ頭の下がる思いである。Gherardiさんの最後の講演の様子はこちらのリンクで見ることができる。

https://marmorkrebs.blogspot.com/2013/02/remembering-francesca-gherhardi.html


私が初めてGherardiさんにお会いしたのは、1993年にドイツで開催されたInternational Senckenberg Symposium on Decapod Crustacea (Frankfurt a.m.)である。当時Gherardiさんの師匠であったイタリア甲殻類学の巨匠のMarco Vannini教授が率いる甲殻類研究チームメンバーが大挙して参加してきており、Florence Crab Teamという文字の入ったおそろいのTシャツを着ていた。私とは同世代の方である。

Gherardiさんの師匠のVannini教授による追悼文は下記で読むことができる。

https://www.tandfonline.com/doi/pdf/10.1080/03949370.2013.821785

Gherardiさんの生涯については、下記で読むことができる。

https://en.wikipedia.org/wiki/Francesca_Gherardi


    合掌