シンポジウム【甲殻類と生息場スケールをめぐる新たな視点】
シンポジウム【甲殻類と生息場スケールをめぐる新たな視点】 が東海大学で、2018年09月03日に開催されました。これは、日本甲殻類学会の「若手の会 第1回自由集会」として開催されたものです。
開催主旨 -----------------------------------------
沿岸域, 特に潮下帯から潮間帯にかけての水深帯には, 沖合域に比べてはるかに多様な環境が存在し, それぞれの環境には様々な種が時に特異的に, 時に偶来的に, 時に普遍的に出現します. このような沿岸環境の多様性と, 異なる環境に出現する底生動物種の多様性の関係を, 生態学ではhabitat diversity, habitat heterogeneity, habitat variability, habitat connectivity, coastal ecosystem complexなど, 少しずつ視点の異なる概念を用いて説明してきましたが, それらに共通するのは「沿岸域は多様なハビタット(生息場)の集合だ」という考え方です. また近年、特に磯根資源に関する研究では, 個々の種が成長に伴い生息場を変える, あるいは複数の生息場を直列的・並列的に利用するなど, 生活史を通じての生息場スケールが, 従来の認識よりも大小さまざまであり, 時には同一種内でも可変的であることがわかってきました. 個々の種の生活史や生息場利用についての理解が深まれば, 水産種ならより現実的な資源管理やより実際的な資源量変動の予測に, 固有種・希少種であればその保全に, 普通種であればその後の調査・研究の効率化のために, 大いに役立つことでしょう. 「ハビタットの集合である沿岸域を, 個々の種がどのように利用しているか」という視点は, おそらく今後の甲殻類学において, 今まで以上に重要になっていくのではないかと思います.
『日本甲殻類学会 若手の会』のキックオフ集会となる本集会では, 生態学と分類学, あるいはその両方にまたがる立場から,「種の生活史」「成長に伴う生息場変化」「複数種の棲み分け」「生息場の形成・改変」「他の生物への生息場の提供」などに関する地道な研究を行ない, これまでの認識を大きく変えるような成果を上げている若手の研究者に声をかけ, ご自身の研究を紹介していただく機会を設けました. 既に研究活動を行っている若手研究者だけでなく, 今後, 研究を本格的に始めようとしている学生にも良い刺激となれば幸いです.
世話人: 大土直哉・太田悠造
プログラム -----------------------------------------
太田悠造(鳥取県立山陰海岸ジオパーク 海と大地の自然館)ウミクワガタ類の宿主および生息基質利用
大土直哉(東京大学大気海洋研究所 国際沿岸海洋研究センター)モガニ類の分類・生態の研究から見えてきた沿岸岩礁域生態系の多様性
川井田 俊(島根大学エスチュアリー研究センター)マングローブ域におけるカニ類の棲み分けと餌利用との関係-セルロースの分解能に着目して-
邉見由美(京都大学フィールド科学教育研究センター 舞鶴水産実験所)テッポウエビ類の巣穴構造-巣穴形成と共生者による巣穴利用-
吉川晟弘(京都大学フィールド科学教育研究センター 瀬戸臨海実験所)ヤドカリの貝殻という生息環境
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